***star star star &……
ほんの少し集落から離れただけだというのに。
星の見え方はこんなにも変化するものなんだろうか。
いつもは活気溢れる海賊船も、皆寝静まった今は、ひっそりと静まっている。1人、船のへりにて、アティは夜空を眺めた。
「どうしたの、センセ。空なんて見上げちゃって」
特徴のある女言葉にアティは
「スカーレル」
振り返り、軽く目尻を下げた。
「そんな薄着で甲板に出てると、風邪ひくわよ?」
言いながら、スカーレルは自分が羽織っていたもこもことしたファーを、アティにかけてみせた。
ふわりとした軽い重みがアティの小さな躰を包み込み、あまりの心地よさに彼女は軽く瞼を閉じた。
それだけで躰はとても温まったけれど。胸のあたりの中心が一番ぽかぽかと心地よいものに包まれる。
「ありがとうございます」
彼をまっすぐに見つめて言う。と、「どういたしまして」スカーレルは茶目っ気たっぷりにウインクをして見せた。
「で、何やってるの?」
「空を――お星さまを見てたんです」
言うと、スカーレルは視線を上空へと向ける。
「あら、センセ。ロマンティストなのね。……でもこのあたりは集落が点々としているから、あまり見えないわよ? 海の真ん中や集落から離れた場所の方が、ずっとよく見えるんじゃないかしら」
「そうかもしれませんね。でも――わたし、こうやってのんびりと空を見上げることなんて、ずっとなかったですから。……軍にいた頃や今までは」
できるだけさらりと吐き捨てたつもりでいたけれど。
言葉の最後に自ずと現れてしまった苦い色に、アティは自嘲の笑みを浮かべる。
何も言わずに、スカーレルは彼女との間合いを縮めた。
そして、彼女の躰を後ろから抱きしめてみせる。
「スカーレル?」
いつもの冗談交じりのハグとは明らかに違う彼の様子に戸惑い、アティは首だけで軽く振り返り、彼を見上げる。けれどしっかりと抱きすくめられているせいで、彼の表情を確認することはできなかった。
「そうね……確かに、ゆっくりと夜空を見上げるなんて、久々ね」
アティに言うというよりは独白に近い囁きの温かな音色に、心臓の奥の奥がちくりと甘い軋みの色を滲ませる。
彼の薄い胸板と華奢な腕から移る体温に酔いながら。アティはゆっくりと流れ落ちる今の時間が、そのまま速度を緩めて止まってしまえばよいのにと思った。
けれど。
スカーレルはすぐにするりとアティを解放してしまう。
彼が腕を離すその瞬間、ファーがアティの頬を掠めちくちくと軽い痛みを覚えた。
少し距離を置いて隣へ移動したスカーレルの表情を見るなり。
アティは思わず綻ぶように笑みを浮かべた。
「どうしたの、ニヤニヤして」
彼が心底不思議そうにアティの顔を覗き込むので、
「何でもありませんよ」すぐに表情を引き締めたけれど。
肩にかかったままのスカーレルのファーを、強く強く抱きしめた。
「ヘンなセンセ」
呟く彼の声を聞きながら。
アティは今日の星空を絶対に忘れないだろうと思った。
風にたなびく緋色の髪を抑えて。
2人はしばらくの間、船上で星空を眺めていた。
敢えてスカがどんな表情をしていたのかの描写は省略。
アティ先生の独り占めという方向で〜。
本当はね。舞台は島だから、どこだって星はキレイに見れると思うんだよ。
だけど、設定を何も知る前に浮かんでしまったネタなので、ちと違和感。
夜中にベッドの中で思いつき、ノートにすらすらと書いていたら。
またスカーレルに会いたくなり、それから徹夜でサモナイ3をプレイ。
馬鹿以外の何者でもないけれど。
2003/12/6